ふらっと薬局にいらした方から「めまいに効く漢方薬はありますか?」と聞かれることがままあります。
めまいの程度は様々ですが、急に起きたり長く続いたりすると大きな病気があるのではないかと心配になり、医療機関を受診される方も多いようです。
めまいのご相談で当薬局に訪れる方はほぼ全員、医療機関を受診しても原因が分からなかったか、ある程度の期間標準的な治療を受けても改善しなかったか、ほぼどちらかに分かれます。
「めまいに効く」とされる漢方薬
医療用にも使われる漢方薬で「めまい」の効能が明記されている漢方薬には次のようなものがあります。
- 黄連解毒湯(おうれんげどくとう)
- 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
- 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
- 半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)
- 苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)
- 通導散(つうどうさん)
- 桃核承気湯(とうかくじょうきとう)
当店にめまいで訪れた方の大半は「半夏白朮天麻湯」か「苓桂朮甘湯」のどちらかを使われています。漢方薬によほど習熟した医師でない限り、他の漢方の処方は難しいのではないかと思います。
両者とも「使ったらめまいが改善した」という報告は複数ある1,2)のですが、「使っても効果がなかった」という方々がそれなりの頻度で当店のような漢方薬局を訪れているのが現状です。
※上記に漢方薬を列挙しましたが「根拠なく片っ端から当たってみる」ということは避けてください。体調を悪化させる可能性があります。
当薬局における「めまい」の考え方
中医学において、めまいは「風」「肝」「痰」「火」「虚」と深く関係すると考えられています3)。
専門用語が出てくると急に難しくなりますね。なので本記事では極めてシンプルにご説明します。
めまいの起こる中医学的なメカニズムは大きく分けて、以下のどちらかです。
- 頭部まで十分な栄養が届いていない。
- 頭部が「悪いもの」によって掻き乱されている。
それぞれ簡単にご説明します。
頭部まで十分な栄養が届いていない
中医学では、身体の機能を正常に発揮させる物質を「正気」と呼びます。
頭に十分な正気が行き渡っていれば、感覚は鋭敏で、めまいも起きません。
この正気が何らかの原因で不足した時にめまいが起きることがあります。
- 加齢
- 肉体や精神の疲労
- 長患い
- 胃腸虚弱
- 過度な出血
などにより「正気」は消耗しやすくなります。
また、肩こりや強い精神的ストレスのある方では、十分な正気があっても「途中で詰まっていて頭まで届かない」ケースもあります。
このようなケースでは、正気を補う漢方薬や、正気を巡らせる漢方薬を中心に使うことで改善を目指します。
頭部が「悪いもの」によって掻き乱されている
元々の体質に日頃の生活習慣の乱れなどが加わり生まれた「悪いもの」が頭部の正気を乱すことでも、めまいが起こります。
「悪いもの」の性質は様々です。
- “水分”の停滞
- 風
- 陽亢
- 火
などが挙げられます。いずれも中医学に独特の概念です。
本記事では細かい説明は割愛しますが、「悪いもの」の種類、それが生まれる「原因」に応じて漢方薬を使い分ける必要があります。
長く続くめまいは原因が複数ある場合も
めまいの発症から数年経ってから、当店を訪れる方も少なくありません。
このような場合は原因が複雑化し、こじれていることがほとんどです。
栄養が不足している、かつ「悪いもの」が溜まっているということも珍しくなく、シンプルな場合に比べるとかなり厄介なものとなります。
効能に「めまい」が記載された漢方薬だけではなく、めまいの元となった原因を取り除く漢方薬を適宜織り交ぜてお勧めしていきます。
複数の漢方薬を組み合わせ、経過を見ながら手を変え品を変え、絡み合った原因の糸を解きほぐしていきます。
1種類の漢方薬を長く続けて完結することはほぼありません。
めまいの改善は腰を据えて
西洋薬で改善しないめまいでも、適切な漢方薬で改善するケースはあります。それだけで諦める必要はありません。
ただし、長く続くめまい、再発を繰り返すめまいの改善は一筋縄ではいかないことは頭に留めておいていただきたいところです。
個々の体質に合わせ「漢方薬でめまいを改善する作戦」を立てることはできますが、「めまいに効く漢方薬」を一律にご紹介することはできません。
めまいの改善は腰を据えて取り組んでいきましょう。
じっくり時間をかけてお話を伺う必要もありますので、必ずご予約のうえお越しいただくことを強くお勧めいたします。