薬局のブログです。

のどの詰まり感と漢方薬

「喉が詰まっている感覚がある」

「喉に違和感がある」

「喉にいつも痰が絡んでいるけれど出てこない」

当薬局でしばしばご相談をお受けするお悩みです。

喉に強い炎症や悪性腫瘍の可能性も考慮する必要はありますが、ほとんどの方が耳鼻咽喉科などの医療機関を受診後に来局されているため西洋医学で原因が分からない症状として漢方薬で対応させていただくケースが多いです。

市販薬、処方薬を使って…

喉の詰まり感、違和感がある場合、裏にアレルギーや逆流性食道炎、シェーグレン症候群などが隠れていることもありますが、全く客観的な原因が見当たらない場合は真性咽喉頭異常感症と診断されることがあります。

精神的ストレスや不安感、それらに伴う自律神経の失調などが原因で喉に違和感を感じると考えられており、俗に「ストレス球」「梅核気」などと呼ばれています。

「梅核気には半夏厚朴湯」という定説があり、保険調剤に携わっていた時でもほとんどの方が半夏厚朴湯を処方されていたという印象があります。ドラッグストアなどでも広く市販されており、自己判断で試してみたという話も時折耳にします。

質の高い研究は皆無に近いですが、喉のしこり感覚に対して半夏厚朴湯を使った人の6割程度が改善(自然治癒の可能性もあり)したという報告1)があります。

一方で、上記の研究データから4割以上の人に無効であるという解釈もできることを見落としてはなりません。

半夏厚朴湯が効かない時は?

半夏厚朴湯や自然治癒によりすぐ改善するに越したことはありません。問題は改善しなかった場合です。

この場合、私は「漢方薬の選択の誤り」と捉えることが大半です。

伝統医学の知識を持ち合わせていない医療従事者が、効果がないのに半夏厚朴湯を数ヶ月に渡って漫然と使わせ続けた挙句、

「漢方薬だから長く飲まないと効かない」「漢方薬は気休め」「使わないよりまし」「漢方だから…」

という結論に陥ってしまうことを看過したくありません。

半夏厚朴湯は優れた処方です。

無効だった場合は、別の漢方薬を考え直す必要があります。

喉と内臓の関係

当薬局で漢方相談をされる方は「半夏厚朴湯を使ったけれど改善しなかった」という方がほとんどです。

そのような方に漢方薬を提案する際には、伝統医学に依拠した思考が必要となります。

喉に症状がある時、必ず念頭に置いているのは気血の通り道「経絡」です。

伝統中国医学の経絡の概念を適用すると、喉の内部には以下のような経絡が走っています。

  • 手太陰
  • 足太陰経 
  • 手少陽
  • 足少陰
  • 足厥陰

督脈、任脈、陰維脈、陰蹻脈といった奇形八脈の一部も喉周辺を通過しています。

喉は多くの内臓(肝心脾肺腎)と繋がり、それらの経絡が交じり合う、気血の交通の要所なのです。

喉の不調は、必ず全身の状態とリンクさせて対処法を考えなければなりません。

半夏厚朴湯が効果を表す経絡はごく一部

半夏厚朴湯に配合されている生薬と、それぞれが効果を表す経絡は次の通りです2)

  • 半夏:脾・胃
  • 厚朴:肺・脾・胃・大腸
  • 茯苓:肺・脾・胃・心・腎
  • 生姜:肺・脾・胃
  • 蘇葉:肺・脾・胃

半夏厚朴湯が効果を表す経絡は、脾・胃・肺がメインであることがお分かりになるでしょうか。

喉には心・肝・腎といった経絡も通じていますが、半夏厚朴湯がこれらの経絡に及ぼす作用は限定的です。

全身の状態を詳しく伺った結果、心・肝・腎などに問題がある場合は全く別の生薬が配合された漢方薬を使用する必要が生まれます。

「詰まり」の性質を見極める必要も

半夏厚朴湯の中医学効能は、行気解鬱、降逆化痰3)です。

「気の滞り」を流し去り、「痰飲」という有害物質を降ろし去る処方として開発されています。

これらの原因のみで喉の詰まり等が起きている場合には効果が出やすいのですが、実際の対応をしていると、以下のように他の原因が絡んでいることも少なくありません。

  • 外邪
  • 火熱
  • 瘀血
  • 血虚
  • 気虚

不足している気血をさらに削ぐ、熱がある時にさらに温める、といった誤った対応をしてしまうと効果が出ないばかりか症状が悪化することすらあります。

喉の詰まり感は、心身と向き合うチャンス

喉の詰まりに適切な漢方薬を使い効果が得られる場合でも、着実ながら喉の詰まりはゆっくり解きほぐされるように改善していくケースが多いと感じています。

影響を与える精神的ストレス、気候変化、疲労などに伴って改善と悪化も繰り返します。

これは喉の詰まり感が、喉だけではなく全身の状態を反映したものであることを裏付けとなるのではないかと考えています。

原因としてはホルモンや自律神経バランスの乱れなどが考えられますが、その上流には日頃の生活習慣、精神面、生活環境、加齢などが関与しているはずです。

症状が出る前と比較して、体調に何らかの変化が出ているということは間違いありません。

喉の詰まり感は心身の変調のサインの一つであり、漢方相談を通じることで体質や生活習慣などを見直すための良いきっかけとなるかもしれません。

参考文献

1)Kagohashi K, Tamura T, Ohara G, Satoh H. Effect of a traditional herbal medicine, hangekobokuto, on the sensation of a lump in the throat in patients with respiratory diseases. Biomed Rep. 2016 Mar;4(3):384-386. doi: 10.3892/br.2016.592. Epub 2016 Feb 5. PMID: 26998281; PMCID: PMC4774332.

3)中医臨床のための常用生薬ハンドブック 第1版, 神戸中医学研究会

3)中医臨床のための方剤学, 神戸中医学研究会

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