こちらの記事では、中医学や漢方薬に触れていると出会うことの多い「腎虚」という状態について、できるだけ噛み砕いてご説明します。
「腎虚」は腎精不足、腎気虚とも呼ばれます。
中医学の「腎」は、西洋医学の腎臓とは異なります。「腎」について馴染みのない方は、まずはこちらの記事⇨「腎」のおはなしをお読みいただくことをお勧めします。
腎虚って何だろう?
「腎」の機能が低下した状態
【ご注意】西洋医学での「腎機能低下」とは異なります。
「腎」には、生命の根源となる「精」が貯えられています。
腎に貯えられた精は「腎精」と呼ばれ、腎がはたらくためのエネルギー源となります。
腎が機能を発揮するためには
- 「腎精」の量が十分あること
- 「腎精」がきちんと機能すること
の両方が必要です。
「腎虚」は腎の機能が低下した状態です。
つまり、
- 「精」の量が不十分
- 「精」の機能が発揮されない
のどちらかが起きた場合、「腎虚」の状態になります。
「腎虚」になるとどうなるの?
「腎虚」になると、腎が本来の役割を担えなくなります。例えば次のような症状が現れることがあります(ただし、これらの症状があっても、それだけで腎虚と決めつけることはできません)。
老化する
「腎精」の機能は、私たちの「体内年齢」に直結します。さらに腎は下半身、排泄、骨、脳、耳、髪などと関連が深い内臓です。
「腎虚」になると、世間一般に「加齢現象」と言われる変化が起きます。
「腎虚」による症状の代表例
- 足腰が弱くなる。重だるくなる。
- 腰痛が起きやすくなる。
- 骨がもろくなる。
- 耳鳴りが起こる。
- 物忘れが増える。
- 動作がゆっくりになる。
- 尿のトラブルが起こる
「最近、若い頃のようにはいかなくなったなあ」と感じたら、「腎虚」が隠れているかもしれません。
子供を作りにくくなる
性別に関わらず、子供をつくることのできる年齢には限界があります。これは子供をつくるための材料でもある「腎精」が加齢とともに減少するためです。
「生殖力の低下」はある程度の年齢になれば誰にでも訪れるものです。「腎虚の入り口」と解釈することもできると思います。
なぜ腎虚になるの?
中医学では、腎虚の原因として次の2つが影響すると考えられています。
1. 生まれ持った素因
誕生前、母親のお腹の中にいるうちに蓄えられる腎精のことを「先天の精」と呼びます。
両親から受け継いだ遺伝子、母親の体内における栄養・健康状態が「先天の精」に直結します。
中医学では、遺伝的な特徴、出産前の環境により、誕生時に与えられる腎精には個人差があると考えられています。
2. 生活習慣
生まれるまでの腎精も重要ですが、腎精は、生まれた後でも自らの努力で増やすことができます。
私たちは、食事を取ることで身体を作り、成長します。飲食物から「腎精」が作られ、蓄えられます。こちらを「後天の精」と呼びます。
先天の精 + 後天の精で、私たちの腎精は作られます。
では、この腎精の消耗スピードを速め、腎虚に結びつく生活習慣として、次のようなものが挙げられます。
- 栄養不良(栄養不足、過食、栄養バランスの偏り)
- 過労、運動不足
- 過度な性生活
- 慢性的な病気
過度な性生活を除き、腎精を守るうえで特別なことはありません。
ごく当たり前のことに落ち着いてしまいますが、基本的な生活習慣を整えること、そして継続することが、腎虚を遅らせるためには大切です。
腎虚は静かに忍び寄る
私たちが歳を重ねるのに、腎精の消費を避けては通れません。老衰で亡くなることを目指せば、タイミングの違いはあれど、腎虚は誰にでも必ず訪れます。
私たちにできることは、腎精を計画的に利用すること。
腎精は、食事や漢方で補うこともできますが、一気に取り戻すのは至難の技。乱れた生活が続いていると、貯金と同じように「気づいたらいつの間にか減っていた」となることも。
腎虚は静かに訪れます。長期的な視点と、普段から健康管理の積み重ねが大切です。