漢方薬をいつまで飲むか?

薬局コラム

当薬局で多くの方が心配されていることの一つが、「漢方薬をいつまで飲むか?」という問題です。

漢方薬を継続するには、それなりの手間と費用がかかります。

また「漢方といえども薬だから長く飲むと身体に負担がかかるんじゃないだろうか?」と考える人もいらっしゃいます(自身の健康に真剣に向き合っていただけている証拠です)。

漢方薬を飲む期間は、法律やガイドラインなどで決められているわけではありません。本記事では、筆者の私見を述べていきます。

漢方に詳しい医師や薬剤師の間でも、漢方薬を続けるべき期間については諸説あります。「こんな考え方もあるんだなあ」と頭の片隅におきつつ、実際には担当の医師や薬剤師と相談しながら、継続・中止の判断をしましょう。
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本来はゴールあり?

中国医学のバイブルとも言える、現存する中国最古の医学書『黄帝内経素問こうていだいけいそもん』には、次のような分かりやすい記述があります。

およそ、強度の毒性をもつ薬は、病の十分の六を除去し、それ以上服用してはいけません。平常の毒性をもつ薬は、病の十分の七を除去し、それ以上服用してはいけません。弱度の毒性をもつ薬は、病の十分の八を除去し、それ以上服用してはいけません。毒性のない薬でも、病の十分の九を除去したら、それ以上服用する必要はありません。

引用元:現代語訳 黄帝内経素問 下巻P.212 東洋学術出版社

分かりやすく図にしてみました。

さらに薬を飲み終わった後は、通常の飲食物で体調を整えていくことが勧められています。「医食同源」の考え方ですね。

少なくともこの時代、症状が改善すれば、漢方薬は卒業できるとされていたことが伺えます。当店でも、極力このスタンスに則り、漢方薬の服用をお勧めするよう努めています。

それでは、「病が9割除去された状態」「91点以上の状態」とはどのようなものでしょうか?

91点以上の健康状態って?

判断は人それぞれ

病が「9割」改善したことの判断は、とても難しいものです。

なぜなら、目指すゴールが一人一人で違うからです。

例えばカゼの症状改善を目標とするなら、ゴールはわかりやすいでしょう。熱や咳、体のだるさなどが改善し、元の体調に戻れば、一般的には漢方薬を中止できます。

ただ、例えば「カゼをひきやすい体質」の改善を目指した場合、ゴールの見極めが難しくなります。

目標が達成されたあとで漢方薬の中止をアドバイスするにあたり、慎重になるのは次のようなパターンです。

  • 漢方を中止することにより、症状が再発してしまう場合
  • 他にも改善したい症状が残っている場合

「何をもって9割改善とするか」は漢方を始める時に決めておくことが、漢方の卒業タイミングを逃さないコツだと考えています。

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実際の目安

医療機関から処方されている漢方薬を中止するタイミングは、医師の指示に従いましょう。

セルフメディケーションの一環として販売している漢方薬の場合、当薬局では

① 納得のいくところまで症状が改善し、かつ

② 中止しても一定期間症状が再発しない場合、卒業の検討を促していきます。

中には「漢方を飲んでいた方が調子が良い」「将来に向けた健康づくりの一環として続けていきたい」という方もいらっしゃいます。

そのような場合は、体調確認を継続しつつ、効果が十分かつ、最小限の量で漢方薬を継続していただけるようアドバイスしています。

種類によっては、短期間の服用にとどめた方が良い漢方薬もあります。長期の服用を考慮し、バランスの取れた配合の漢方薬を選択することも大切です。

ライフスタイルも見直そう

体調不良には、必ず何かしらの原因があります。中医学では

  • 過労
  • 運動不足
  • 飲食の不摂生
  • 感情の行き過ぎ(我慢、怒り、恐怖、考えすぎなど)
  • 生活リズムの乱れ

といった原因の積み重ねが、病気につながると考えられています。

何かと慌ただしい現代社会。衛生環境こそ整っているものの、病気の原因となり得るものに溢れています。

「漢方のサポートなしで、普段の生活環境を乗り切れるか?」ということも、卒業を考える中で必要な観点になると思います。

生活習慣の改善や、精神面をコントロールする方法を身につけることも、漢方薬の卒業に向けて有効な手段となるでしょう。

漢方の卒業は天秤にかけて考えることも。

漢方の毒性?

漢方薬を長期間続けることで、体に害が出る心配をされている方も少なくないはずです。

結論としては、「間違った使い方を続けたら害になる可能性がある」と考えています。

漢方薬は、本来「弁証論治べんしょうろんち」という方法で、一人一人の症状・体質に合わせて使うものです。

漢方薬を続けるうちに、症状や体質は変わり得ます。変化があれば、それに合わせて使う漢方薬も変えていかなければなりません。

症状がある程度改善した状態は、体内の様々なバランスが取れた状態です。症状が安定し、長期間の服用が必要な際は、バランスを大きく変化させる生薬(毒性の高いもの)ではなく、バランスを維持する生薬(毒性なし〜少ないもの)を中心にお勧めすることが多いです。

最初に出てきた黄帝内経の一文で、薬の毒性について触れられていた背景にもこのような事情はあるはずです。

近年、漢方薬の長期使用で重い副作用が出たという報告もあります。ただ、(きちんと理論を学べば)本来長期的には使用しない生薬が使われていたというケースも存在します。

最後に

漢方薬は多くの方が考えているより、早く効きます。

ただ、「病の十分の九を改善する」まで辿り着くには、それなりに時間がかかるのも事実です。

治療のスタートダッシュが良かったとしても、7割改善したものを8割、9割とさらに改善し、維持するにはより多くの時間を要するというのが相談に携わっている中での実感です。

漢方薬はすぐ効く、だけどじっくり長く飲むことも大切、と言われる理由の一つがここにあると考えています。

漢方を始めるか迷っている方、始めたけれど出口が見えず不安を感じている方もいらっしゃるかもしれません。そのような時は、薬剤師や医師がどのような考えを持っているのか確認してみましょう。意外な発見があるかもしれません。